レビュー「わが朝鮮総連の罪と罰」

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「わが朝鮮総連の罪と罰」

発行年:2002
発行社:文藝春秋
著者:韓 光煕, 野村 旗守

≪P249~252より抜粋≫
番組放送直後から、韓さんに尾行がつくようになった。
駅のホームで線路に突き落とされそうになったこともある。
「ゴールデンウィークの最初の一日だった」と韓さんは言っていた。
友人と上野で食事をしてビールを軽く一杯ひっかけて、JR山手線の御徒町駅から上野方面の電車に乗ろうと混雑したホームに立っていたという。
(「時刻は午後四時から四時三0分のあいだだったと思う」)。

電車がホームに飛び込んでくると同時に、後ろから三人組の男たちに背中を押された。
強く踏ん張ったので、なんとか倒れずにすんだ。
後ろを振り返ると、三人の男達が散り散りに逃げてゆく。
「この野郎!」と思って後を追いかけたが、追いつけなかった……。
そんな話を聞いている。
追いつけるはずはないのだ。病気のせいで、言葉だけでなく、韓さんは歩行もかなり不自由だ。
しかし、たとえ三人組が朝鮮総連の手の者であったとしても、本気でやるつもりはなかったはずだ。
まだ長銀への公的資金投入問題が控えている。ここでもし、韓さんの身に何かあれば、たちまち大騒ぎになってしまう。組織の存亡のかかったこの時期にそんな無謀な真似をするはずはない。
「今度喋ったら、殺すぞ」―― その意味での警告であった可能性が高いと思う。

韓光熙さんの身体を張った爆弾証言によって、一三長銀救済のための公的資金投入はひとまず見送られた。その後、さまざまな紆余曲折はあったが(この間の経緯に関しては『北朝鮮 送金疑惑』を参照)、破綻した長銀信組に金融整理管財人が派遣され、検査のやり直しがはじまった(二000年一二月)。
その後も面談を重ねているうち、韓さんが知っているのはどうやらカネのことだけではないらしいこともわかってきた。
朝鮮総連がおこなってきたさまざまな裏活動、そして本国の事情についても、驚くほど精通していたのである。
その時々の北朝鮮情勢に関する韓さんの予測 ―― たとえばミサイルのこと、不審船のこと、日朝交渉のことなど ―― は、ピタリピタリと的中する。
紛れもなくこの人は、日朝関係の真実を語りうる重要な歴史の証人だ。私はそう確信した。

「韓さん、本を書きましょう。韓さんの喋ったことを私が文字に直しますから」
そのようにして、本書は書き始められた。
インタビューは上野界隈の喫茶店でおこなわれていたのだが、我々は頻繁に会合場所を変えなければならなかった。
我々の面会は事前に察知され、何者かに見張られているようであった。
私にはわからないが、韓さんにはわかる。
「今日、来るときに誰かにつけられなかった?」
たとえば、喫茶店の片隅で、対角を指して韓さんが私に言う。
「あそこで新聞を読んでいるのは、向こうの人間だよ」 と。

そんなことも二度や三度ではなかった。
そのたびに場所を変えるのだが、いつのまにか知られてしまう。
もしかしたら、韓さんのアパートの電話が盗聴されていたのではないかとも思うのだが、よくわからない。
そんなふうにして常に背後を気にしながら、およそ一年の時間をかけて、ようやく本書は完成の手前まできた。

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